ネフローゼ症候群とは
腎臓は、血液を濾過して不要な老廃物を尿として排泄する一方で、体に必要な成分(蛋白や電解質など)は再吸収して体内に戻す、いわば「精密なフィルター」のような働きをしています。
ところが、何らかの原因でこのフィルターに異常が起こると、本来は漏れてはいけない、血液中の蛋白(とくにアルブミン)が尿中に多量に漏れ出してしまいます。
血液中の蛋白が減ると、血管内の水分を保つ力が弱まり、血液中の水が体の組織に染み出し、むくみ(浮腫)が現れます。
このように、多量の尿蛋白・低アルブミン血症・浮腫・高コレステロール血症などを主な特徴とする状態をまとめて「ネフローゼ症候群」と呼びます。ネフローゼ症候群は状態を表しますので、その原因は様々です。
主な症状
最もよく見られるのはむくみです。
初めは「足がむくむ」「靴がきつくなった」といった形で気づかれ、次第に顔(特にまぶた)や手の甲にもむくみが広がります。
血液中の蛋白が大きく減ると、体のあちこちに水がたまり、
- 体重が急に増える
- 息苦しさ(胸水・肺水腫)
- お腹の張り(腹水)
- 食欲低下、腹痛
- 男性では陰嚢の腫れ(陰嚢水腫)
といった症状が出てくることもあります。
また、尿が泡立つ・だるい・疲れやすい、という訴えで受診される方も少なくありません。
診断基準
ネフローゼ症候群の診断は、主に尿検査と血液検査で行います。
- 尿蛋白:1日3.5g以上(定性4+)
- 血清アルブミン:3.0g/dL以下
この2つを満たす場合に「ネフローゼ症候群」と診断します。
さらに、浮腫や高コレステロール血症があれば診断を裏づける所見になります。
原因
ネフローゼ症候群の原因は大きく分けて一次性(原発性)と二次性(続発性)があります。
一次性ネフローゼ症候群
腎臓そのものに原因があるタイプで、いくつかの病型に分けられます。
確定診断には腎生検(腎臓の組織を顕微鏡で調べる検査)が必要です。
- 微小変化型ネフローゼ症候群
- 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)
- 膜性腎症
- 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)
二次性ネフローゼ症候群
全身性の病気が原因となって腎臓が障害されるタイプです。
- 糖尿病性腎症
- ループス腎炎(全身性エリテマトーデス)
- アミロイド腎症
- IgA血管炎(旧称:紫斑病性腎症)
- 感染症や悪性腫瘍
などがあります。
この場合は、原因疾患そのものの治療が最優先になります。
治療
ネフローゼ症候群では、「蛋白尿を減らす」「むくみを取る」「合併症を防ぐ」ことが治療の柱になります。
原因によって治療法が異なりますが、基本的な考え方は次の通りです。
蛋白尿を減らす治療
- ステロイド薬(内服または点滴)
初期はステロイドパルス療法(3日間の高用量点滴)を行うこともあります。 - 免疫抑制薬(シクロスポリン、ミゾリビン、シクロホスファミドなど)
ステロイドの効果が乏しい場合や再発を繰り返す場合に併用します。 - リツキシマブ(生物学的製剤)
特定のタイプのネフローゼ症候群で有効とされています。 - LDLアフェレーシス
血液中の脂質と一緒に炎症性物質を除去する治療法で、難治例に行うことがあります。
浮腫(むくみ)を取る治療
- 塩分制限(1日6g未満)と安静が基本です。
- むくみが強い場合には利尿薬を使用します。
- ただし、ネフローゼ症候群では血液が濃縮しやすく血栓ができやすいため、長時間の安静は避け、軽い歩行やマッサージで血流を保つことが大切です。
- 血清アルブミンが極端に下がり、利尿薬でも改善しない場合には、一時的に透析療法を行うこともあります。
支持療法
- 抗凝固薬・抗血小板薬:血栓予防。
- 降圧薬(ARB/ACE阻害薬):腎保護。
- 脂質異常症治療薬:高コレステロール血症を改善。
まとめ
ネフローゼ症候群は、腎臓のフィルター機能が壊れることで蛋白が漏れ出し、全身にむくみが現れる病気です。
原因はさまざまですが、早期に診断し、適切な治療を続ければ回復するタイプも多くあります。
むくみや尿の泡立ち、体重の急な増加などを感じたら、早めに腎臓専門医を受診してください。
当院では、血液検査、尿検査からネフローゼ症候群が疑われる場合は、腎生検が可能な総合病院、大学病院へ適切に紹介いたします。