概要
シェーグレン症候群 (Sjögren’s syndrome)は、唾液腺炎と涙腺炎を主体とし、多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症を来たす自己免疫性疾患の一つです。我が国での患者数は約6.8万人とされていますが、潜在的は10~30万人程度存在すると推定されています。シェーグレン症候群は難病法に基づく指定難病の一つであり、受給者数は約1.6万人(令和元年度)です。男女比は1:17で女性に多く、発症年齢は40~60歳にピークがあります。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの他の膠原病を合併していない一次性と、合併する二次性に大別されます。一次性が約60%で二次性が約40%を占めます。一次性シェーグレン症候群は病変が涙腺、唾液腺に限局する腺型と病変が全身諸臓器に及ぶ腺外型に分けられます。
症状
涙腺の障害は目乾燥(ドライアイ)、唾液腺の障害は口腔乾燥(ドライマウス)として主症状を形成します。それ以外の症状は腺外症状として現れます。主なものに、関節症状、リンパ節腫脹、環状紅斑や紫斑、橋本病、肺病変(間質性肺炎と末梢気道病変)、腎病変(間質性腎炎・尿細管性アシドーシス、糸球体腎炎)、神経障害(末梢神経障害と中枢神経障害)、血球減少やリンパ増殖性疾患など多彩な臓器病変とそれに伴う症状を呈します。
血液検査
シェーグレン症候群に特徴的とされる抗SS-A抗体や抗SS-B抗体を調べます。同時に抗核抗体やリウマトイド因子などの自己抗体の存在も確認します。シェーグレン症候群では血球減少、肝機能障害や腎機能障害についても確認する必要があります。
診断
日本では1999年に改定された厚生労働省の診断基準が主に用いられています(表1)。唾液分泌機能の検査としてガムを10分噛んで分泌された唾液量を評価するガムテスト、99mTcO4を用いて唾液腺(耳下腺と顎下腺)機能を評価する唾液腺シンチグラフィーが用いられます。涙の分泌量は下眼瞼にろ紙をはさみどれだけ濡れるかを見るシルマーテストにて評価します(正常は5分で5mm以上濡れる)(図1)。角膜の損傷程度は色素染色による評価法(ローズ・べンガル試験、蛍光色素試験)にて行ないます。リンパ球が唾液腺や涙腺組織を侵しているかどうかを確認するために口唇小唾液腺や涙腺の生検が実施されることもあります(図2)。
1. 生検病理組織検査(次のいずれか) |
口唇腺組織で4mm2辺り1focus (導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤) |
涙腺組織で4mm2辺り1focus以上 |
2. 口腔検査(次のいずれか) |
唾液腺造影でstageI(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見 |
唾液分泌量低下 (ガム試験にて10分間で10ml以下またはSaxonテストで2分間で2g以下) があり、 かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見 |
3. 眼科検査(次のいずれか) |
Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつローズベンガル試験(Van Bijsterveldスコア)で3以上 |
Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性 |
4. 血清検査(次のいずれか) |
抗Ro/SS-A抗体陽性 |
抗La/SS-B抗体陽性 |
診断 |
上記4項目のうち、2項目以上で診断する |


シェーグレン症候群疾患活動性指標(ESSDAI)
医師による一次性シェーグレン症候群の疾患活動性の評価法としてESSDAI (EULAR Sjögren’s syndrome disease activity index) が用いられます。ESSDAIは4点以下を低疾患活動性、5~13点を中疾患活動性、14点以上を高疾患活動性としており、指定難病の認定は5点以上となっています。
治療
現時点ではシェーグレン症候群を根治させることは困難なため、乾燥症状に関しては対症療法、他の腺外症状に対しては臨床的な活動性が低いか高いかを判断し、ステロイドや免疫抑制剤による治療を行います。
ドライアイに対する治療
・点眼による涙液補充が行われます。涙蒸発防止のためのゴーグルや、涙点プラグによる鼻涙管の閉塞も有効です。ムチン産生促進剤であるジクアホソル点眼液、レバミピド点眼液が使用されることもあります。
ドライマウスに来する治療
副交感神経ムスカリン受容体刺激薬であるセビメリンやピロカルピンが用いられます。人口唾液や水分補給による口腔乾燥の防止も重要です。
腺外症状に対する治療
原発性胆汁性胆管炎の治療はウルソが中心ですが、自己免疫性肝炎ではステロイドが中心となります。間質性腎炎、間質性肺炎、末梢神経障害、中枢神経障害、血球減少が進行する場合には、ステロイドや免疫抑制剤による治療が検討されます。
生活上の注意
・エアコン、飛行機の中、たばこの煙などに注意しましょう。
・ブラッシングやうがいを含めた口腔ケアをチキンと行いましょう
・刺激物や甘いものは控えるようにしましょう。
・規則正しく、十分な睡眠と栄養バランスをとれた生活を心がけましょう。
・病気について正しく理解し、上手に付き合っていきましょう。
結婚された時の注意
抗SS-A抗体陽性の方が妊娠した場合、抗体が胎児に移行することで新生児時ループスを起こす事がまれにあります。多くの方の症状は生後半年くらいで治ります。先天性ブロックの場合はペースメーカーの瘤留置は必要となるため、不整脈に注意しつつ産科や小児循環器科と連携していく必要があります。
当院での取り組み
当院では眼科と協力しながらシェーグレン症候群の治療に当たっています。多くの方は腺症状(ドライアイとドライマウス)のみですが、中には腺外症状を有する方もいるので、定期的な全身のチェックをして早期の発見に努めています。