ベーチェット病

概要

ベーチェット病はぶどう膜炎、口腔潰瘍、陰部潰瘍、皮膚の炎症の4つが最も特徴的な症状で、これらを繰り返す全身性炎症性疾患です。トルコのBehçetが初めて報告した病気で、トルコなどの地中海沿岸部と日本、中国、韓国など東アジアで患者さんが多く、シルクロードに沿って患者さんが分布していることから、シルクロード病とも呼ばれています。日本には約2万人の患者さんがいると推定されています。好発年齢は20~40歳、男女比は約1:1で性差はありませんが、男性の方が重症化しやすく、内臓病変を持つことが多いとされています。明らかな原因は解明されていませんが、これまでの研究から、白血球抗原HLA-B51などの白血球型などいくつかの遺伝子の形の違いが病気の発症に関わっている可能性が考えられています。

症状

1.主症状

口腔粘膜症状

口内炎は境界鮮明な浅い有痛性潰瘍で、ほぼ必発の症状です。繰り返す、治りにくい、複数できる、しばしば大きいなどが特徴です。欧米の診断基準では「1年に3回以上繰り返す」ことが診断に必要とされています。

皮膚症状

結節性紅斑様皮疹、毛嚢炎様皮疹、血栓性静脈炎の3つがあります。結節性紅斑様皮疹は下肢に良く出現し、コイン程度の大きさで、赤く盛り上がり、押すと痛いという特徴がります。毛嚢炎様皮疹は中心に水ぶくれを伴うニキビのような皮疹です。血栓性静脈炎は皮膚に近い静脈に血の塊ができることで静脈が炎症を起こし、血管に沿って手足が赤く腫れる症状を起こします。

眼症状

ぶどう膜炎が典型で飛蚊症、霧視、羞明、眼痛などの症状が現れます。前眼部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)では前房に蓄膿が観察されることがあります。後眼部ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)は視力低下に関わり、繰り返すと失明のリスクとなります。

外陰部潰瘍

男性では陰嚢に、女性では大陰唇に、口内炎のような痛みを伴う潰瘍ができます。深い潰瘍ができることもあり、その場合は痕を残して治ります。

2.副症状

関節炎

四肢の大関節(肘、肩、膝など)に好発します。関節破壊は稀です。

消化管病変

典型的な腸管の病変は、小腸と大腸のつなぎ目である回盲部と呼ばれる部分に起こります。丸くて深く、周りの粘膜との境目がくっきりとした潰瘍が内視鏡で見られます。回盲部以外でも食道から大腸まであらゆる場所に潰瘍ができます。

神経病変

急性型として、髄膜炎や脳幹脳炎がみられ、慢性進行型として、小脳症状、脳幹委縮、認知機能低下、性格変化などがみられます。

血管病変

中型から大型の動脈に血栓性閉塞や動脈瘤をきたすことがあります。静脈病変としては深部静脈血栓の併発もあり得ます。

診断

日本の診断基準(表1)では4主症状、5副症状の組み合わせで診断します。消化管病変、神経病変、血管病変が主体の症例は、特殊型としてそれぞれ腸管ベーチェット、神経ベーチェット、血管ベーチェットと診断します。

表1 厚生労働省ベーチェット病診断基準2016年小改訂
I. 主症状
1. 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
2. 皮膚症状
a. 結節性紅斑様皮疹
b. 皮下の血栓性静脈炎
c. 毛嚢炎様皮疹、ざ瘡様皮疹
3. 眼症状
a. 虹彩毛様体炎
b. 網膜ぶどう膜炎 (網脈絡膜炎)
c. 以下の所見があれば(a), (b)に準じる。
(a), (b) を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、
続発緑内障、眼球癆
4. 外陰部潰瘍
II. 副症状
1 変形や硬直を伴わない関節炎
2. 精巣上体炎(副睾丸炎)
3. 回盲部で代表される消化器病変
4. 血管病変
5. 中等度以上の中枢神経病変
病型診断の基準
完全型:経過中に4主症状が出現したもの
不全型
a: 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
b: 経過中に典型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの
疑い
主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
特殊病変
完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
腸管(型)ベーチェット病
血管(型)ベーチェット病
神経(型)ベーチェット病
参考となる検査所見(必須でない)
1. 皮膚の針反応の陰性・陽性:20~22Gの注射針を用いること
2. 炎症反応:赤沈値の亢進、血清CRPの陽性か、末梢血白血球数の増加、補体の増加
3. HLA-B51の陽性(約60%)、A26陽性(約30%)
4. 神経型の診断においては髄液検査における細胞数増多、IL-6増加、MRI画像所見 (フレア画像での高信号域や
脳幹の萎縮像) を参考とする。

治療

皮膚粘膜を中心とした軽症と、眼、神経、血管などの重症とによって治療法は大きく異なります。軽症に分類される皮膚粘膜症状に対しては、局所のステロイド投与(軟膏や点眼)、コルヒチン1~3錠の内服、ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛剤を用います。コルヒチンを内服しても口腔潰瘍が改善しない場合にはアプレ三ラスト(商品名オテズラ)が使用可能です。重症例は副腎皮質ステロイドの内服に加えて、シクロスポリン(商品名ネオーラル)、メトトレキサート(商品名リウマトレックス)やアザチオプリン(商品名イムラン)などの免疫抑制剤を併用します。最近では、難治性眼病変および腸管型、神経型、血管型ベーチェット病に抗TNF阻害薬であるインフリキシマブやアダリムマブが投与されるようになりました。

生活上の注意

全身の休養と保温に気をつけ、ストレスの軽減、感染の予防に努めましょう。口腔内の衛生に留意し、齲歯、歯肉炎の治療も重要です。また喫煙は病気の悪化因子ともなりますので禁煙を心がけましょう。食事については、特に食べてはいけないものや推奨するものはありませんが、バランスの取れた食事をとりましょう。

当院での取り組み

当院では眼科、皮膚科、神経内科などと連携をとりながら、適切な診断と治療を心がけています。

menu