概要
リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica: PMR)は、50歳以上の高齢者に多く発症し、肩の痛み、身体に近い側の肩や上腕、腰部や大腿部など四肢近位部の痛みやこわばり、微熱や倦怠感を呈する炎症性疾患です。「リウマチ」という名前はついていますが、関節リウマチとは異なる病気です。男女比は1:2で女性に多く、発症年齢のピークは70歳です。日本では少ないですが、欧米ではPMR患者の約20%に巨細胞性動脈炎を合併することが知られており、遺伝や環境要因など共通の病因が考えられています。
症状
首から肩、上腕、腰から臀部、股関節部にこわばりと痛みが、一般手的には左右対称に出現します。最も典型的なのは、高齢者の方が、「ある日急に、肩や腰が痛くて服を着替えたり、歩くのが大変になった」、「寝返りを打つのが大変だ」、「夜中に肩や腰が痛くて目が覚める」などと訴えます。また炎症にもとづく微熱、全身倦怠感、食欲不振がみられることがあります。
検査
血液検査
炎症反応を示すC反応性蛋白 (CRP) や赤血球沈降速度 (ESR) の上昇が特徴的です。貧血や血小板数の増加がみられることもあります。
画像検査
超音波検査:肩や股関節周囲の滑液包炎が確認されます。
関節MRI:超音波と同様に肩や股関節周囲の滑液包炎が確認されます。
造影CT検査:リウマチ性多発筋痛症は時に悪性腫瘍を合併することがあり、診断時には念のため、造影CTを行うことがあります。
FDG-PET検査:巨細胞性動脈炎を合併している場合には、その活動性の判定に用いられることがあります。
診断
この病気を診断する上で大切なことは、まず症状からこの病気を疑うことです。そして関節リウマチ、脊椎関節炎、筋炎、血管炎などの膠原病や感染症、悪性腫瘍などによる症状を本疾患と誤認しないことが重要です。いくつかの診断基準がありますが、最もよく使われるのがBirdの基準です。
1. 両側肩の痛み、またはこわばり |
2. 発症2週間以内に症状が完成する |
3. 血沈の亢進 (40 mm/h以上) |
4. 1時間以上持続する朝のこわばり |
5. 65歳以上 |
6. 抑うつまたは体重減少 |
7. 両側上腕の筋の圧痛 |
診断 |
上記7項目のうち3項目を満たすもの、もしくは 1項目以上を満たし臨床的あるいは病理学的に側頭動脈炎を認めるものをリウマチ性多発筋痛症とみなします。 |
治療
初期治療
グルココルチコイド (ステロイド) が標準的な治療薬として用いられ、著効を示すことが知られています。多くの場合、プレドニゾロン (商品名:プレドニン) 10~20 mg/日が初回治療薬として使用されます。基本的にはほとんどの方が少量のステロイドに反応して症状が数日以内に改善します。もし治療開始後2週間以内に症状が改善しない場合には、プレドニンを5~10mg/日程度増量します。症状が改善した後は、ステロイドを徐々に減量します。治療期間は2~3年にわたることが一般的です。
免疫抑制剤
メトトレキサート:ステロイドを減量中に再燃した場合や、ステロイドの副作用を軽減する目的で抗リウマチ薬であるメトトレキサートを併用することがあります。通常、6~8mg/週程度で開始します。
生物学的製剤
本邦では未承認でありますが、関節リウマチ治療に用いられるIL-6阻害薬(商品名:アクテムラとケブザラ)が有望視されています。特に再燃リスクの高い患者さんにたいする治療薬として期待されています。
再燃と副作用管理
ステロイドの減量中に再燃が起きる場合もあるため、症状のモニタリングが重要です。一度再燃した患者さんは、その後も再燃を繰り返すことが報告されています。また、ステロイドによる骨粗鬆症、高血圧、糖尿病などの副作用への対応も必要です。治療は個別化されるべきであり、患者ごとに適切な計画を立てることが求められます。
生活上の注意
生活リズムの整備:規則正しい生活を心がけ、適度な運動を取り入れましょう。ウオーキングやストレッチなどの軽度な運動が役に立ちます。
栄養管理:骨粗鬆症予防のため、カルシウムやビタミンDを積極的に摂取しましょう。塩分を控えバランスの良い食事を心がけましょう。ステロイドによる生活習慣病の管理も大事な要素です。
感染予防:ステロイド使用中は免疫機能が低下するため、嗽、手洗い、マスクの着用、予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌ワクチン、新型コロナワクチンなど)を徹底しましょう。
当院での取り組み
ひろせクリニックでは11人のリウマチ専門医が診療に当たり、多くのリウマチ性多発筋痛症の患者さんの治療実績があります。関節リウマチや他の膠原病、他疾患との鑑別を行い、早期診断と治療を心がけています。