糖尿病性腎症

糖尿病の微小血管障害

糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの不足や働きの低下によって、血糖値が高い状態が続く病気です。高血糖の状態が長く続くと、体の中の細い血管が徐々に傷つき、全身の臓器に障害が起こります。

糖尿病による細小血管の合併症には、以下の3つになります。

  1. 神経障害
  2. 網膜症(目の障害)
  3. 腎症(腎臓の障害)

糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症は、進行の段階によっておおまかに5期に分けられます。

高血糖が長く続くと、腎臓の中にある「糸球体」という濾過装置の壁(基底膜)が少しずつ厚くなり、血液のろ過がうまくできなくなってきます。
初期には症状がほとんどありませんが、次第に尿にアルブミン(たんぱくの一種)が漏れ出すようになります。

症状

初期のうちは自覚症状がありませんが、腎機能の低下が進むと次のような症状が現れます。

  • 尿量の減少(または変化)
  • 顔や足のむくみ(浮腫)
  • 食欲の低下
  • 倦怠感、息切れ
  • 体重増加やだるさ

これらの症状は、腎機能がかなり低下してから現れることが多いため、症状が出る前に検査で早期発見することが非常に重要です。

検査と診断

糖尿病性腎症の早期発見には、尿中アルブミン検査が欠かせません。
1日の尿中に30mg以上のアルブミンが検出された場合、「早期腎症」と診断されます。

また、糖尿病を長く患い、神経障害や網膜症がすでにある方で、尿たんぱくが出てきた場合には、糖尿病性腎症である可能性が高くなります。
一方、血尿を伴う場合や他の合併症が見られない場合には、ほかの腎臓病(糸球体腎炎など)を疑い、必要に応じて腎生検を行います。

経過と予後

糖尿病性腎症は非常にゆっくり進行する病気ですが、後期になると悪化のスピードが速くなります。
初期(1〜2期)には10年以上かけてゆっくり進みますが、3期以降になると数年(2〜5年)で透析が必要になることもあります。

また、腎臓の障害だけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管合併症が起こりやすくなります。

治療

血糖コントロール

早期発見・早期治療が何よりも大切です。
特に腎症2期までは、厳密な血糖管理によって腎症の進行を止めたり遅らせたりすることが可能です。
インスリン注射や経口血糖降下薬を用いながら、HbA1cを目標値内に維持することを目指します。

近年は、SGLT2阻害薬やGLP-1作動薬など、血糖降下作用十ともに、臓器障害を抑制する効果のある薬剤が注目を集めています。

血圧の管理

糖尿病性腎症では、高血圧を合併することが多く、腎臓の負担を減らすために早期からの降圧治療が重要です。

  • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
  • ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

これらの薬は、血圧を下げると同時に糸球体を保護し、蛋白尿を減らす効果があります。

食事療法

  • 減塩(1日6g未満)
  • たんぱく制限(腎機能に応じて調整)
  • 適正エネルギー摂取(栄養不足に注意)

腎臓に負担をかけないように、塩分とたんぱくのバランスを取ることが大切です。
食事療法は医師・管理栄養士と相談しながら、個々の腎機能に合わせて調整します。

浮腫の管理

むくみが強い場合には、塩分制限に加えて利尿薬を使用します。
ただし、過剰な利尿は脱水や腎血流低下を招くため、慎重に調整します。

まとめ

糖尿病性腎症は、糖尿病患者さんにとって最も重要な合併症のひとつであり、透析導入の原因として日本で最も多い疾患です。
早期に異常を見つけ、血糖・血圧・食事をきちんと管理することで、進行を大幅に遅らせることが可能です。

気になる症状のある方は、お早めにご相談ください。早期診断、早期治療がカギとなります。

当院の専門外来について

内分泌・代謝外来で糖尿病の専門外来を行っております。

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  • 水曜日午前
  • 金曜日午後(第2、第4)
  • 土曜日午前(第1、第3、第5)

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