肺非結核性抗酸菌症とは
肺非結核性抗酸菌症(NTM症)は、結核菌やらい菌以外の「抗酸菌」という細菌によって引き起こされる肺の感染症です。 「結核」という名前が入っていますが、結核とは異なり、人から人へ感染することはありません。近年、日本国内で患者数が増加しており、結核の罹患率を上回っています。 原因菌は190種類以上ありますが、日本人の場合はその約8割が「マック菌」と呼ばれる菌によるもの(肺MAC症)です。
感染経路と罹患しやすい方
生息場所
土壌や水回り(台所、お風呂、シャワー、公園の池など)といった自然界に広く生息しています。
感染経路
塵埃(ホコリ)や水滴とともに菌を吸い込むことで肺に定着します。
感染しやすい方
免疫力が低下している方のほか、一見健康で痩せ型の、中高年の女性に多く発症するのが特徴です。
主な症状
約3分の1の方は無症状で、健康診断の胸部X線検査などで偶然発見されます。 症状がある場合は、長引く咳、痰(血が混じることもあります)、息切れ、疲労感、微熱などがみられます。
肺非結核性抗酸菌症の診断基準
日本結核・非結核性抗酸菌症学会 ・ 日本呼吸器学会による診断基準を以下に示します。
診断基準(2008年)
A. 臨床的基準(以下の2項目を満たす)
- 胸部CT(HRCTが望ましい)で,結節性陰影・小結節性陰影や分枝状陰影の散布・
均等性陰影・空洞性陰影・気管支または細気管支拡張陰影のいずれかの所見(複
数可)を示す。 - 他の疾患を除外できる。
B. 細菌学的基準(菌種の区別なく以下のいずれか1項目を満たす)
- 2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。
- 1回以上の気管支洗浄液および肺胞洗浄液での培養陽性。
- 病理組織検査(経気管支肺生検または肺生検検体)で抗酸菌症に合致する所見を認め,組織または喀痰検体で1回の培養陽性。
以上のA,Bを満たす。
※2024年には、以下の暫定的診断基準も提唱されてています。この基準によれば、肺MAC症が疑われる場合、1回の痰の検査が陽性で、かつ血液検査(抗GPL-core IgA抗体):抗MAC抗体が陽性であれば、暫定的に診断が可能となりました。
この新しい基準は、日本独自の判断指標として追加されたもので、国際ガイドラインには明記されていません。診断後も、より確実な診断(国際基準の充足)を目指して検査を継続することが推奨されています。また、血液検査が陽性であっても、他の菌の影響を考慮する必要があるため、最終的な判断は専門医が画像所見とあわせて総合的に行います。
暫定的診断基準(2024年改訂)
- 肺MAC症の初回診断時に限り,臨床的基準を満たし,1回の喀痰検体で培養陽性かつ抗GPL-core IgA抗体陽性。
- 臨床的基準を満たし,胃液検体で培養陽性の場合,喀痰検体で1回以上の培養陽性。
〔付記〕
*暫定的診断基準はわが国の基準であり国際ガイドラインでは認められていない。
* 通常,本疾患では検体採取には十分な時間的余裕があり,抗GPL-core IgA抗体,胃液を利用した診断は喀痰を得ることが難しい状況に限定すべきである。
* 暫定的診断基準を満たした後も,検体採取を継続し,国際ガイドラインの診断基準を満たすよう努める。なお,本暫定基準の妥当性については引き続き評価を行う。
治療の進め方
診断されたからといって、すぐに強い薬での治療が必要になるとは限りません。この病気は非常にゆっくり進行するため、軽症の場合は経過観察を行うことも多いです。
• 治療の開始: 肺に「空洞」がある場合や、痰の中に多くの菌が出ている(塗抹陽性)場合は、積極的な治療が推奨されます。
• 治療内容: 通常、3種類の抗生剤を組み合わせ、1年半〜2年以上の長期にわたって内服します。
• 副作用の管理: 長期間の服用となるため、視力障害や肝機能障害などの副作用がないか、定期的なチェックが欠かせません。
• リウマチ・膠原病の治療で免疫抑制薬や生物学的製剤を使用されている方は、NTM症を含む感染症のリスクが高まることがあります。定期的な胸部X線検査などによるフォローや呼吸器内科と連携した治療が必要です。当院では、リウマチ科、呼吸器内科がそろっており、当院のみで、両診療科を受診することが可能です。
日常生活での注意点
• 体調管理: 痩せ型の方が多い傾向にあるため、しっかり栄養をとり、体重を減らさない工夫が大切です。
• 環境への対策: 土いじりやホコリの舞う作業をする際はマスクを着用しましょう。また、浴室やシャワーヘッドの定期的な掃除も有効です。