ANCA関連血管炎

概要

 ANCA関連血管炎は文字通りANCA (好中球細胞質抗体;Anti-Neutrophil Cytoplasmic Antibodies) に関連し全身の血管の炎症を来たす病気の総称です。顕微鏡的多発血管炎(MPA; microscopic polyangiitis)、多発血管炎性肉芽腫症 (GPA; granulomatosis with polyangiitis)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (EGPA: eosinophilic granulomatous with polyangiitis) の3つがANCA関連血管炎に含まれます。高安病や巨細胞性動脈炎といった大きいサイズの血管を障害する血管炎とは異なり、ANCA関連血管炎では小さいサイズの血管(細動脈~毛細血管~細静脈)が障害されます。本邦では3疾患とも「指定難病」であり医療費助成の対象となります。ANCAは自身の好中球(血液中で最も多くみられる白血球)の細胞質を標的とする抗体の総称です。ANCAが標的とするのは主にMPO(ミエロペルオキシダーゼ) とPR3 (プロテイナーゼ3) の2つです、MPOを標的とするMPO-ANCAはMPAとEGPAで多くみられ、一方、PR3を標的とするPR3-ANCAはGPAで多くみられます。

 ANCA関連血管炎の疫学的特徴には日本と欧米との間に大きな差があります。日本ではMPAの患者さんの数がGPAのそれを大きく上回ります (3倍以上) が、欧米では逆にGPA患者さんがMPA患者さんのそれを上回ります。日本でのANCA関連血管炎の年間発症率は人口100万人あたり18人程度で、MPA, GPAは高齢の方に多く発症して性差はありませんが、EGPAは20歳代~若年の方にも発症し、女性にやや多い傾向 (男女比約1:2) があります。ANCA関連血管炎は薬剤に関連して発症することがあり、臨床上重要です。代表的なものとして、プロピルチオウラシル (商品名:チウラジール、プロパジール)に関連したANCA関連血管炎が挙げられます。

症状

ANCA関連血管炎の患者さんの多くは全身の炎症を反映して、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少、関節炎、筋肉痛などを自覚します。感冒やインフルエンザ、細菌感染症と診断され抗生物質などが処方されるケーズもあります。

MPA

好発年齢は55~74歳と高齢者に多い。腎臓、肺、末梢神経、皮膚は障害されることが多く、浮腫み、咳、呼吸苦、血痰・喀痰、手足のしびれ、運動障害、紫斑などを自覚します。

GPA

好発年齢は男性30~60歳代、女性は50~60歳代が多い。上気道 (耳・鼻・喉)、肺、腎が障害され、難聴、耳鳴り、耳痛、めまい、鼻閉、鞍鼻 (鼻筋が陥凹した鞍のような形) になる。なかでも中耳炎の障害はOMAAV (ANCA関連中耳炎:Otis Media with ANCA-Associated Vasculitis) として認識され、難治性の中耳炎の原因となり、重要です。また肥厚性硬膜炎(脳や脊髄の硬膜が炎症を起こして肥厚する)を合併すると頭痛を伴います。

EGPA

好発年齢は40~69歳。気管支喘息またはアレルギー性鼻炎と言った好酸球に関連した病気が先行し、発熱や体重減少などの全身症状と多発単神経炎による血管炎による知覚、運動機能障害、皮膚血管炎による紫斑などがみられます。その他、消化管出血、心筋梗塞や心外膜炎、脳梗塞・脳出血を来たすこともあります。

検査と診断

ANCA関連血管炎は、臨床症状 (腎臓、肺、皮膚などの障害)、生検での 病理組織所見、血液検査でのANCAの検出の3つが総合的に評価されて診断に至ります。各疾患の分類基準も整備されており、厚生労働省による顕微鏡的多発血管炎 (表1)、多発血管炎性肉芽腫症 (表2)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (表3) の診断基準が用いられます。

表1 顕微鏡的多発血管炎 (1998年厚生労働省診断基準)
主要症候
1. 急速進行性糸球体腎炎
2. 肺胞出血もしくは間質性肺炎
3. 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
主要検査所見
1. MPO-ANCA
2. CRP
3. 蛋白尿・血尿、血清尿素窒素、クレアチニンの上昇
4. 胸部X線所見:肺胞出血を疑う浸潤影や間質性肺炎
診断
1. 確実
(a)主要症候の2項目+主要組織所見
(b)主要症候の1. 及び2. +MPO-ANCA陽性
2. 疑い
(a)主要症候の3項目
(b)主要症候の1項目+MPO-ANCA陽性

表2 多発血管炎性肉芽腫症 (1998年厚生労働省診断基準)
主要症候
1. 上気道 (E)眼(眼痛、視力低下、眼突出)、耳(中耳炎)、鼻 (膿性鼻漏出血、鞍鼻)、口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
2. 肺 (L)血痰、咳嗽、呼吸困難
3. 腎 (K)血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧
4. 血管炎症状①全身症状
発熱 (38度以上、2週間以上)、体重減少 (6か月以内に6kg以上)
②臓器症状
紫斑、多関節炎、上強膜炎、多発性神経炎、胸膜炎
虚血性心疾患 (狭心症・心筋梗塞)、消化管出血 (吐血・下血)
主要組織所見
1. E, L, Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
2. 免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
3. 小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
主要検査所見
PR3-ANCA (蛍光抗体法でcytoplasmic pattern, c-ANCA)
診断
1. 確実
(a)主要症状の3項目以上 (E, K, Lの各々の症状を含む)
(b)主要症状の2項目以上+組織所見
(c) 主要症状の1項目以上+組織所見+C-ANCA陽性
2. 疑い
(a)主要症候の2項目以上
(b)主要症候の1項目+組織所見
(c)主要症状の1項目以上+c-ANCA
参考となる検査所見
1. 白血球、CRPの上昇
2. 血清尿素窒素、クレアチニンの上昇

表3 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (1998年厚生労働省診断基準)
主要症候
1. 気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎
2. 好酸球増加(白血球分画の10%以上、800/μL以上)
3. 血管炎症状
発熱 (38度以上、2週間以上)、体重減少 (6か月以内に6kg以上)、多発性単神経炎、消化管出血、紫斑、多関節炎、筋肉痛、筋力低下
臨床経過の特徴
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、好酸球増加が先行し、血管炎による症状が出現
主要組織所見
1. 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う小血管の肉芽腫またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在
2. 血管外肉芽腫の存在
3. 蛋白尿・血尿、血清尿素窒素、クレアチニンの上昇
4. 胸部X線所見:肺胞出血を疑う浸潤影や間質性肺炎
診断
1. 確実
(a)主要臨床所見の3項目+主要組織所見の1項目
(b)主要臨床所見の3項目+臨床経過の特徴
2. 疑い
(a)主要臨床所見の3項目+臨床経過の特徴
(b)主要臨床所見のみで臨床経過の特徴を満たさない
参考となる検査所見
1.白血球増加 (1万/μL以上)
2. 血小板増加 (40万/μL以上)
3. 血清IgE増加 (600 U/mL以上)
4. MPO-ANCA陽性
5. リウマトイド因子陽性
6. X線で肺浸潤影

治療

以前はグルココルチコイド(ステロイド)に依存していましたが、最近ではステロイド以外の有効な薬剤が複数登場したことでステロイドの使用量を少なくした安全性が高い治療ができるようになってきました。顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症には、シクロホスファミド(商品名、エンドキサン)、リツキシマブ(商品名、リツキサン)、アザチオプリン(商品名、イムラン、アザニン)が主に用いられます。加えて最近は、アバコパン(商品名、タブネオス)を併用することによりステロイドの使用量を少なくすることが可能となりました。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対しては、シクロホスファミド(商品名、エンドキサン)に加えて大量免疫グロブリン(商品名、ベニロン)やメポリズマブ(商品名、ヌーカラ)が使われます。

生活上の注意

治療により免疫が抑制されると細菌やウィルス感染への抵抗力が低下し、重篤な感染症に罹患する可能性がありますので、手洗い、うがい、マスクの着用など、感染症の予防には十分に努めることが大切です。ステロイドの副作用として高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病が悪化することがあるので、規則正しい生活を心がけてください。骨粗鬆症に対する予防・対策も必要となります。

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