IgG4関連疾患

概要

21世紀に入り、日本から発信された新しい概念として注目されています。免疫異常や血中IgG4高値に加えて、IgG4陽性の形質細胞の著しい浸潤と線維化によって涙腺、唾液腺、膵臓を主体に多彩な臓器に病変が出現する全身性疾患です。21世紀までは全身性の疾患とは考えられず、「涙腺・唾液腺」、「膵臓」、「後腹膜」など、それぞれの臓器の病気と考えられていました。その代表はミクリッツ病で、1892年のポーランド生まれのミクリッツが報告した左右の涙腺、耳下腺、顎下腺が腫れた42歳の男性に由来します。その後、ミクリッツ病ではIgG4の血中レベルが高いことが判明しました。さらに21世紀の初頭、信州大学のグループが自己免疫性膵炎では血清IgG4が上昇すること、膵炎組織にIgG4陽性細胞が多数含まれていることを報告し、自己免疫性膵炎とIgG4の関連が注目されました。さらにミクリッツ病と自己免疫性膵炎がしばしば合併することが明らかとなり、両者は同一の疾患の異なった局面を見ているのではないかと考えられるようになりました。腎や胆管、後腹膜、大動脈周囲、肺など多くの臓器にも同じような病変が生じることが分かり、2010年に現在のIgG4関連疾患と総称することが厚生労働省研究班で決定されました。

症状

好発部位である涙腺、唾液腺、膵、胆管、腎、大動脈周囲などにおいて、リンパ球とIgG4陽性細胞が浸潤し線維化を来たし、腫大や結節による圧迫や閉塞症状をきたします。特に涙腺・顎下腺の腫れは容貌の変化や、下顎の硬いしこりとして気づかれることがあります。膵・腎などのおなかの病変は無症状のことが多く、たまたま撮影した腹部CTで膵の腫れや大動脈周囲の異常を指摘されて見つかることがあります。

涙腺・唾液腺

上眼瞼腫脹、顎下部腫大、ドライアイや口腔乾燥感、味覚低下、鼻閉、嗅覚低下など。

膵・胆管系

腹痛、背部痛、黄疸など

大動脈周囲・後腹膜

背部痛、下腿浮腫、水腎症など

肺・気管支

咳や労作時の息切れなど

下垂体・硬膜

多尿、口喝、倦怠感、微熱、頭痛など

検査所見

血清IgG4高値 (135 mg/dL以上) は特徴的であるが、その他に高IgE血症や好酸球増加なども見られる。IgG4関連疾患は全身疾患なので、他の部位にも病変がないかどうかを検索するため、造影CTやMRI、ときにはPET/CT(保険適応外)が利用されます。病理検査が、確定診断には必要で、IgG4/IgG陽性細胞比が40%以上、かつ強拡大視野で10個以上のIgG4陽性細胞を認めることが典型像です。

診断

診断は、原則的にはIgG4関連疾患包括的診断基準 (2020年改訂) (表1) に従いおこなわれます。2019年に欧米を中心に作成された基準もあります (ACR/EULAR IgG4関連疾患分類基準 2019年)。前述のような症状・徴候でIgG4関連疾患が疑われた場合、血清IgG4を測定し、有意の上昇 (135 mg/dL以上) を確認して、腫れている臓器・部位を生検します。病理組織検査はIgG4関連疾患の前向きな診断確定のため、またIgG4関連疾患に類似した別の疾患、特に悪性腫瘍を除外するために施行することが勧められます。指定難病として医療費助成を受けるためには診断確定に加え、IgG4関連疾患の場合は原則、6か月間、グルココルチコイドでの治療を行っても臓器障害が残存していることが条件となっています。

表1 2020年改訂IgG4関連疾患包括的診断基準
項目1臨床的に単一または複数臓器に、特徴的なびまん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変を認める
項目2血液学的に高IgG4血症 (135mg/dl以上) を認める
項目3病理組織学的に以下の3項目中2つを認める
①著明なリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化を認める
②IgG4陽性形質細胞浸潤
IgG4/IgG陽性細胞比40%以上、かつIgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える
③特徴的な線維化、特に花筵様線維化あるいは閉塞性静脈炎のいずれかを認める。
診断
確定診断群1、2、3を満たす
準確診群1、3を満たす
疑診群1、2を満たす

治療

通常、グルココルチコイド (ステロイド) で治療します。グルココルチコイドの一種であるプレドニゾロン 0.6 mg/kg/日を2~4週間服薬し、その後3~6日カ月かけて5mg/日まで減量し、2.5~5 mg/日で維持します。経過次第で、中止も目指します。ステロイドに反応することが多く、腫瘤は縮小し血清IgG4は低下を示します。しかし、ステロイドを漸減していくと再燃を来たしやすいことでも知られています。治療抵抗性の場合、ステロイドの減量を容易にするために免疫抑制剤(アザチオプリン、ミコフェノール・モフェチルやメトトレキサート)が併用されることがあります。欧米ではBリンパ球を標的としたリツキシマブがステロイドの減量中止を目的としてしばしば使用され、一定の有効性が報告されています。

日常生活の注意

長期間ステロイドを服薬する場合には、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症を来たす恐れがあるので日常生活でも注意が必要です。また高用量のステロイドや免疫抑制剤を併用する場合には感染症対策として、嗽、手洗いやマスク着用を励行し、生ワクチン以外の予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、COVID-19など)は積極的に受けることが推奨されます。

当院での取り組み

当院では多くの患者さんが通院をされています。症状が多彩で、似たような症状を呈する疾患があり、多くの診療科と連携をして検査と治療を行っています。

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