グルココルチコイド(ステロイド薬)は、関節リウマチや自己免疫疾患の炎症を強力に抑える薬ですが、用量や使用期間に応じてさまざまな副作用が現れることがあります。近年では、免疫抑制剤や生物学的製剤を併用することにより、極力ステロイドの投与量を減らすことが望ましいとされておりますが、重症の病態では治療の中心であることに変わりはありません。
ここでは代表的な副作用を、性質ごとにまとめています。
感染症(易感染性)
- ステロイドには免疫を抑える作用があり、体の抵抗力(免疫力)が低下します。
- そのため、風邪、肺炎、インフルエンザ、帯状疱疹などの感染症にかかりやすくなります。
- 投与量が多い期間もしくは、合併症や年齢、併用薬の種類によっては、発症すると重篤な肺炎となるニューモシスチス肺炎 (原因微生物:Pneumocystis jirovecii (ニューモシスチス イロベチイ)) の予防としてバクタ®配合錠(ST合剤)を内服することがあります。
- 日常生活では以下の点に注意します。
- 手洗い・うがい・マスクの徹底
- 人混みを避ける
- 発熱や咳、皮疹などが出た場合は早めに受診する
骨粗鬆症
- ステロイドは骨の形成を抑え、骨密度を低下させます。
- 背骨の圧迫骨折や大腿骨頸部骨折が起こりやすくなります。
- 予防として以下の対応を行います。
- 定期的な骨密度検査
- ビスホスホネート製剤、ビタミンD、カルシウムなどの予防的内服
- 適度な運動と日光浴
生活習慣病関連の副作用
- 糖尿病(ステロイド糖尿病)
- ステロイドは糖の合成を促進し、血糖を上げます。
- 食事療法を基本とし、必要に応じて糖尿病治療薬を併用します。
- 高血圧・むくみ
- ナトリウムと水分が体内にたまり、血圧上昇や下肢のむくみが起こります。
- 塩分制限と定期的な血圧測定が重要です。
- 脂質異常症・動脈硬化
- コレステロールや中性脂肪が上がりやすくなります。
- 食事管理と、必要に応じて脂質低下薬を使用します。
眼科関連(白内障・緑内障)
- 白内障(ステロイド白内障)
- 長期使用により、水晶体が白く濁って視界がかすむことがあります。
- 年1回程度の眼科検診を推奨します。
- 緑内障(ステロイド緑内障)
- ステロイドによって眼圧が上昇することがあります。
- 初期は自覚症状が少ないため、定期的な眼圧測定が必要です。
- 減量や中止で改善する場合があります。
精神・神経症状(ステロイド精神病)
- ステロイドは脳にも作用し、不眠、多幸感、イライラ、抑うつ気分などがみられることがあります。
- 高容量を用いる場合にみられる可能性がありますが、一時的で、減量や休薬により改善します。
- 症状が強い場合は精神科との併診を検討します。
皮膚関連の副作用
- ステロイド痤瘡(にきび様皮疹)
- 顔や背中ににきび様の発疹が出ることがあります。
- 減量により改善します。
- 皮膚の菲薄化・あざ
- 皮膚が薄くなり、少しの刺激であざができやすくなります。
- 多毛・脱毛
- 体毛が濃くなったり、逆に脱毛することもあります。
- 多くは一時的な変化です。
その他
- 医原性副腎不全(ステロイド離脱症候群)
- 長期内服により体の副腎が休止状態になります。
- 急に中止すると体内のステロイドが不足し、倦怠感、吐き気、低血圧、発熱など多彩な症状が起こります。
- 重症化すると副腎クリーゼに至ることもあり、生命に関わることがあります。
- 自己判断で中止せず、医師の指示に従い段階的に減量します。
- 大腿骨頭壊死(無菌性骨壊死)
- 高用量ステロイド使用後、数か月以内に股関節痛で発症することがあります。
- 早期発見のためにMRI検査が有用です。
- ステロイド筋症
- 高容量を長期間用いると、太ももや上腕などの筋肉が弱くなることがあります。
- リハビリや減量で改善します。
- 月経異常・不整脈
- ホルモンバランスや電解質の変化により生じます。
- 多くは軽度で一過性です。
- 血栓症
- 血小板の働きが高まり、血栓ができやすくなります。
- リスクが高い場合は抗血小板薬で予防します。
まとめ
ステロイドは、正しく使用すれば非常に有効な薬です。
一方で、副作用を理解し、「予防・早期発見・適切なフォロー」を行うことが安全な治療の鍵となります。
また、ステロイドの自己判断による中止は医原性副腎不全のリスクがあり、非常に危険です。必ず処方された通りに内服しましょう。
当院では、定期的な血液検査、骨密度検査、眼科検診などを通じて、副作用の早期発見と予防を行っています。
また、各種ガイドラインに則り、ステロイドは漫然と使用せず、極力ステロイドの使用量を減らすことを心がけて診療を行っております。