糸球体腎炎

急性糸球体腎炎

概要

急性糸球体腎炎は、「A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染症などをきっかけに、腎臓の糸球体に一時的な炎症が起こる病気です。多くは、感染から10日ほど経ってから発症します。
体の免疫反応が過剰に働くことで、腎臓の糸球体に炎症が起こり、尿の中に血液やたんぱくが漏れ出すようになります。
小児や若い世代に多い病気ですが、大人でもかかることがあります。

主な症状

  • 顔やまぶた、足のむくみ(浮腫)
  • 肉眼的血尿(コーラ色、赤褐色の尿)
  • 尿量の減少(乏尿)
  • 一時的な高血圧
  • だるさ、食欲低下

むくみは、朝の顔のはれぼったさとして気づかれることが多く、夕方には足のむくみとして現れる場合もあります。
発熱やのどの痛みなどの「風邪症状」が数日前にあった場合、急性糸球体腎炎を疑います。

検査所見

尿検査

  • 血尿(顕微鏡的血尿)
  • 蛋白尿
    が特徴です。尿が赤く見えなくても、顕微鏡で確認すると赤血球が多数見られます。

血液検査

  • 補体(CH50、C3、C4)の低下
    体の免疫反応が関与している証拠です。
  • 溶連菌感染の証拠として、以下の抗体が上昇します:
    ASO(抗ストレプトリジンO抗体)
    ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)
  • 腎機能(クレアチニン、尿素窒素:BUN)が一時的に上昇することもあります。
  • 白血球やCRPなど炎症反応が軽度に上昇することもあります。

診断

のどの感染の後に、血尿・蛋白尿・むくみ・高血圧に加え、低補体血症や腎機能障害といった症状がそろえば、臨床的に急性糸球体腎炎と診断します。
必要に応じて、診断を確定したり重症度を確認する目的で腎生検(腎臓の組織を顕微鏡で見る検査)を行うこともあります。

鑑別診断

急性に腎炎症状を呈する病気はいくつかあり、症状だけでは区別がつかないこともあります。

  • IgA腎症
  • 膜性増殖性糸球体腎炎
  • ループス腎炎(膠原病の一種)
  • ANCA関連腎炎

これらと区別するために、発症時期・補体値・抗体検査・腎生検所見を総合的に判断します。

経過と予後

多くの方は、感染が治るとともに腎臓の炎症もおさまり、数週間〜数か月で尿所見が正常に戻ります。
予後は概ね良好で、ほとんどの方が完全に回復します。

ただし、以下の場合は長引いたり慢性化することがあります。

  • 成人発症例
  • 初期に腎機能障害が強い場合
  • 治療開始が遅れた場合

これらでは、尿たんぱくや血尿がしばらく続いたり、慢性糸球体腎炎に移行することもあるため、定期的な尿検査と血液検査が必要です。

治療

感染後に起こる腎炎のため、感染の治療と腎臓の安静が中心になります。

1. 安静と入院管理

  • 尿量の減少、むくみ、高血圧がある場合は入院治療が必要です。
  • 発熱や炎症反応が強いときは抗菌薬(ペニシリン系など)を使用します。
  • 症状が軽い場合は自宅安静でも経過観察可能ですが、水分と塩分の摂取には注意します。

2. 食事療法

  • 塩分制限(1日6g以下)
  • むくみや高血圧がある場合は水分制限も行います。
  • 腎機能が悪化している場合にはたんぱく質の摂取を控えめにします。

3. 薬物療法

  • 利尿薬(むくみや尿量減少の改善)
  • 降圧薬(高血圧の管理)
  • 必要に応じて抗菌薬(原因となった溶連菌感染の再発予防)

まとめ

「風邪のあとに尿の色が赤い」「体がむくむ」、「尿が出にくい」などの症状があれば、早めに医療機関を受診してください

慢性糸球体腎炎(IgA腎症)

概要

慢性糸球体腎炎とは、腎臓の中にある「糸球体」という濾過装置に炎症が起こり、血尿や蛋白尿が続く病気です。
この中でも最も多いのがIgA腎症であり、ここで代表して解説します。
※慢性糸球体腎炎はIgA腎症のみではありません。

「IgA」とは、体の防御システムである免疫グロブリンA(Immunoglobulin A)のことを指します。
本来はウイルスや細菌から体を守る物質ですが、IgA腎症では異常なIgAがつくられ、腎臓の糸球体に沈着して炎症を起こすことが原因です。

感冒(かぜ)や扁桃腺炎などの感染が引き金となって発症することが多く、比較的若い世代に多い病気ですが、どの年代でも起こる可能性があります。

主な症状

ほとんどの方は自覚症状がなく、健康診断の尿検査で「血尿」や「蛋白尿」を指摘されて初めて見つかることが多いです。
一方で、のどの感染や発熱のあとに肉眼的血尿(赤い尿)が出て気づく方もいます。

まれに、ネフローゼ症候群(大量の蛋白尿)や急速進行性腎炎のように、急激に腎機能が低下して発症する場合もあります。

検査

尿検査

  • 血尿と蛋白尿を認めます。
    血尿の程度は炎症の強さを反映するといわれ、重要な手がかりになります。
    初期には蛋白尿が出ない場合もあります。

血液検査

  • 腎機能(クレアチニン、eGFR)は多くの場合、発症初期は正常です。
  • 補体や免疫グロブリン、自己抗体なども確認し、他の腎炎との鑑別を行います。

確定診断:腎生検

IgA腎症の確定には腎生検(腎臓の一部を顕微鏡で観察する検査)が必要です。典型的には、以下の所見が認められます。

  • メサンギウム領域(糸球体の中心部)の細胞増殖
  • IgAと補体C3の沈着(免疫染色で確認)

鑑別診断

発症のきっかけや症状が似ているため、感染後糸球体腎炎や膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎などと区別が難しいことがあります。診断には、発症時期・補体値の変化・腎生検の所見などを総合的に判断します。

経過と予後

IgA腎症は、かつては「ゆっくり進行する良性の腎炎」と考えられていましたが、長期間の血尿・蛋白尿が続くと、糸球体が硬くなり腎臓の働きが失われていくことがわかってきました。

1990年代以降の研究では、20年で40%の患者さんが慢性腎不全に進行することが報告されています。

そのため、早期診断、早期治療が重要となります。

治療

扁摘パルス療法

異常IgAの産生を抑えるための扁桃摘出術を行ったうえで、糸球体の炎症を抑えるためのステロイドパルス療法を組み合わせた治療です。ここに、利尿剤、降圧薬(ARB、カルシウムブロッカー等)やSGLT2阻害薬、抗血小板薬、食事療法などを組み合わせます。

まとめ

IgA腎症は、慢性腎炎の代表的な疾患です。
初期には自覚症状がほとんどなく、健康診断の尿異常から見つかることが多いですが、放置すると腎不全に進行することがあります。早期に診断し、適切な治療を受けることで、腎臓の働きを守ることができます。
血尿や蛋白尿を指摘された方は、ぜひ一度ご相談ください。

急速進行性糸球体腎炎

概要

急速進行性糸球体腎炎(RPGN:rapidly progressive glomerulonephritis)は、腎臓の糸球体に強い炎症が急に起こり、数日から数週間のうちに腎機能が急速に悪化してしまう病気です。発症から短期間で腎不全に至ることもあり、早期の診断と治療が非常に重要です。
診断の目安となるのは次の2つです。

  1. 数週〜数か月のうちに腎不全が急速に進行すること
  2. 尿に血液(血尿)や蛋白(蛋白尿)、さらに赤血球円柱・顆粒円柱など「腎炎性円柱」が見られること

原因

根本的な原因は完全には解明されていませんが、自己免疫反応(自分の体を攻撃してしまう免疫異常)が関係していると考えられています。

日本では、患者さんの6〜7割に「ANCA(抗好中球細胞質抗体)」という自己抗体が見つかります。
この抗体が血管の内側に炎症を起こし、特に腎臓の毛細血管に強い障害を与えます。

このような病態をまとめてANCA関連血管炎(ANCA-associated vasculitis)と呼びます。
ANCA関連血管炎では、腎臓以外の臓器にも血管炎が広がり、

  • 肺(肺出血・間質性肺炎)
  • 皮膚(出血斑、紫斑)
  • 神経(しびれ、神経痛)
    などの症状を伴うことがあります。

主な症状

  • 全身のだるさ(倦怠感)
  • 微熱、食欲の低下
  • 尿の色が濃くなる(血尿)
  • 尿量の減少
  • むくみ(浮腫)
  • 息切れ、咳、血痰(肺出血を合併した場合)
  • 手足のしびれ、皮膚の紫斑(血管炎が広がった場合)

これらは、腎臓だけでなく全身の血管炎のサインであることもあります。

検査所見

尿検査

  • 血尿・蛋白尿
  • 赤血球円柱や顆粒円柱といった「腎炎性円柱」を確認できます。

血液検査

  • 腎機能の悪化:数週間単位でのクレアチニン上昇
  • 炎症反応:WBC、CRP上昇
  • 自己抗体:MPO-ANCA、PR3-ANCA陽性、抗GBM抗体陽性のこともあり

画像検査

  • 胸部レントゲンやCTで肺出血や肺炎の合併を確認することがあります。

診断

尿検査や血液検査で腎障害を確認したうえで、腎生検を行い、糸球体に「半月体形成性腎炎」の所見があるかを確認します。

ANCAが陽性で、急速に腎機能が悪化している場合は、ANCA関連血管炎による急速進行性糸球体腎炎と診断します。

治療

早期に診断し、炎症を強力に抑える治療を始めることが、腎機能を守る鍵になります。

1. 免疫抑制療法

  • ステロイド(プレドニゾロン)・ステロイドパルス療法
  • 免疫抑制薬(シクロフォスファミドなど)
  • 生物学的製剤(リツキシマブ)

これらを組み合わせ、炎症と自己免疫反応を抑えることを目的とします。

2. 血漿交換療法

血液を取り出して血漿中のANCAや自己抗体を除去し、新しい血漿と交換する治療です。
腎機能が急速に悪化している場合や肺出血を合併している場合に行うことがあります。

3. 透析療法

腎臓の働きが著しく低下している場合には、一時的または長期的に透析が必要になることもあります。
しかし、早期に治療を開始すれば腎機能が回復して透析から離脱できる可能性もあります。

4. 感染予防

ステロイドや免疫抑制薬の使用中は、免疫力が低下するため、感染症の予防が大切です。

手洗い、うがい、マスクの着用に加えて、ワクチン接種やニューモシスチス肺炎の予防としてのST合剤の内服などがあります。

まとめ

急速進行性糸球体腎炎は、腎臓の炎症が非常に速いスピードで進み、放置すれば数週間で透析が必要になる危険な病気です。しかし、早期発見と迅速な治療によって、腎機能を守り、透析を回避できる可能性があります。

「体のだるさが続く」「尿の色が濃い」「むくみがとれない」「発熱」「息切れ」などの症状を感じたら、早めに受診することが大切です。

menu