腎硬化症

腎硬化症とは

腎硬化症とは、長年にわたる高血圧の影響で腎臓の血管に動脈硬化が起こり、腎臓の働きが徐々に低下していく病気です。
腎臓の中には、血液をろ過して老廃物を取り除く「糸球体」という小さな濾過装置が多数あります。高血圧が続くと、この糸球体に血液を送る細い血管(細動脈)に強い圧力がかかり、血管壁が厚くなって内腔が狭くなります(細動脈硬化)。
その結果、糸球体への血流が不足し、ろ過する力が失われていきます。やがて糸球体は硬く萎縮し、腎臓全体の働きも落ちてしまうのです。

腎硬化症による慢性腎不全の患者さんでは、腎臓以外の血管にも動脈硬化が進んでいることが多く、心筋梗塞や脳卒中などの重大な合併症を起こすリスクも高くなります。
以前は高齢者に多い病気と考えられていましたが、近年ではメタボリック症候群や生活習慣の影響により、30~40代の比較的若い世代でも発症する方が増えています。

症状と検査

多くの場合、自覚症状はほとんどありません。血圧も降圧薬でコントロールされている方が多く、「特に困っていない」と感じていることも少なくありません。

  • 尿検査:軽い蛋白尿を認めることがありますが、陰性の場合もあります。血尿は通常ありません。
  • 眼底検査:網膜の血管を観察することで、高血圧や動脈硬化の程度を推測できます。
  • 血液検査:腎機能を示す「クレアチニン」や「eGFR」を測定します。eGFRが60 mL/min/1.73㎡未満の場合、腎硬化症による慢性腎臓病(CKD)が疑われます。

特に、高血圧の既往がある方や高齢の方は、定期的に血液検査で腎機能を確認することが大切です。

診断

確定診断は腎生検(腎臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査)によって行われます。
しかし、腎硬化症の多くは高齢の方に見られ、すでに腎臓が萎縮している場合が多いため、実際には腎生検を行わず、

  • 高血圧の経過
  • 尿検査・血液検査の所見
  • 他の腎疾患の除外

これらを総合的に判断して臨床的に診断されることが一般的です。

予後

腎硬化症はゆっくりと進行する病気です。多くの場合、年単位で腎機能が徐々に低下していきます。
ただし、血圧がしっかり管理され、蛋白尿がない状態を維持できれば、腎機能を長期間保つことも可能です。
一方で、コントロールが不十分な場合は、徐々に慢性腎不全が進み、透析が必要となることもあります。

治療

治療の中心は、血圧の適正なコントロールです。血圧を安定させることで腎臓の負担を軽減し、進行を遅らせることができます。

1. 生活習慣の改善

  • 減塩(1日6g未満を目標)
  • 適正体重の維持
  • 禁煙・節酒
  • 適度な運動(ウォーキングなど)
  • 睡眠とストレス管理

2. 薬物療法

降圧薬としては、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やカルシウム拮抗薬(CCB)などがよく使われます。
これらは血圧を下げるだけでなく、腎臓を保護する効果もあります。

注意していただきたいこと

腎硬化症の方は、腎臓への血流変化に敏感です。特に脱水や発熱、下痢、利尿薬の使いすぎなどで体の水分が減ると、腎臓への血流が一時的に低下し、クレアチニン値が急に上がることがあります。
その場合は、点滴で水分を補ったり、感染症の治療を行うなど、原因を取り除くことで腎機能が回復することも多いのがこの病気の特徴です。したがって、

  • 体調不良時の脱水に注意する
  • 不必要な薬を自己判断で使わない
  • 定期的に腎機能をチェックする

これらを心がけることが大切です。

まとめ

腎硬化症は「静かに進む腎臓の動脈硬化」です。
早い段階では症状がないため、高血圧を長く患っている方、あるいは過去に血圧が高かった方は、年に1回でも腎機能検査を受けることをおすすめします。
血圧をしっかり管理することが、重要の治療です。

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