概要
高血圧は、脳卒中・心疾患・慢性腎臓病の発症リスクを高めます。
血圧は、心臓が血液を送り出すときに動脈の壁へかかる圧力で、通常は「収縮期血圧/拡張期血圧(mmHg)」で表します。一般に正常値は収縮期120未満、拡張期80未満ですが、緊張や運動、睡眠不足、気温などで日々変動します。正常範囲を超える高い値が続く状態を高血圧症と呼び、塩分の多い食事、ストレス、運動不足、肥満、喫煙、加齢、遺伝的要因などが関わります。
日本では約3人に1人が血圧高値とされ、総数は4,000万人を超えると推定されています。自覚症状が乏しいまま進むため、気づかない、あるいは治療に至っていない方も少なくありません。長期間の高血圧は血管壁を厚く硬くし、動脈硬化を進めます。慢性腎臓病のリスクも上がり、収縮期血圧が10mmHg上昇すると将来の腎不全リスクが高まるとの報告があります。
分類
高血圧は、本態性高血圧(原因が特定できないタイプ)と、原因が明確な二次性高血圧に分けられます。日本では約9割が本態性で、複数の生活習慣や体質が重なって発症すると考えられています。二次性高血圧は全体の1割程度とされ、以下のような疾患があります。
- 原発性アルドステロン症
腎臓の上にある副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンは、体内の水分や塩分のバランスを調整し、血圧の維持に関わっています。このホルモンが過剰に分泌されることで血圧が高くなる病気が原発性アルドステロン症です。多くは無症状のまま経過しますが、アルドステロンの作用によって血中カリウムが低下すると、筋力の低下や倦怠感などを感じることがあります。診断の手がかりとしては、血液検査でアルドステロンとレニンの値を測定することから始めます。 - 褐色細胞腫
副腎などにできる腫瘍で、アドレナリンやノルアドレナリンといった交感神経を活性化させる物質(カテコールアミン)が過剰に分泌されることにより高血圧を引き起こします。血圧上昇以外にも、動悸・発汗・頭痛・不安感・手の震えなど、多彩な症状を伴うのが特徴です。診断には、血液や尿の検査でカテコールアミン関連ホルモンの異常を確認する方法が用いられます。 - 腎血管性高血圧
腎臓へ血液を送る腎動脈が狭くなることで血流が低下し、腎臓が血圧を上げるホルモン(レニン)を過剰に分泌してしまうことで生じる高血圧です。原因の多くは動脈硬化で、特に高齢の方に多く見られます。一方で、若い女性では「線維筋性異形成」と呼ばれる血管の構造異常が原因となることもあります。スクリーニングとして、血液検査でホルモンの状態を確認したり、腎動脈の超音波検査で血流の狭窄を調べたりします。 - 薬剤性(薬剤誘発性)高血圧
痛み止めとしてよく使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、一部の漢方薬、抗がん剤などによって血圧が上昇することがあります。服用中の薬が原因と考えられる場合でも、自己判断で中止すると症状が悪化することがあるため、必ず医師に相談し、必要に応じて薬の調整を行います。
診断基準(日本高血圧学会)
日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」に準拠します。
- 診察室血圧:収縮期140以上、または拡張期90以上
- 家庭血圧:診察室より5mmHg低い基準を用います
一時的に上がった値ではなく、日常の平均を反映する家庭血圧を重視します。
検査
診断時はまず二次性高血圧の有無を確認します。若年発症、急速に悪化する例、多剤併用でもコントロール困難な例、低カリウム血症など電解質異常、心肥大や腎障害の進行が速い場合は二次性を疑います。
主な原因疾患毎の検査の概略は以下の通りです。
- 原発性アルドステロン症
副腎由来のホルモンであるアルドステロンが過剰となり引き起こされます。低カリウム血症を伴うことあり。血中ホルモンの測定を行います。 - 褐色細胞腫
副腎由来のホルモンであるカテコラミンが過剰となり引き起こされます。代謝亢進、高血糖、多汗、頭痛動悸が高血圧と合わせた5大症状です。血液・尿中のホルモンの測定をします。 - 腎血管性高血圧
腎動脈が狭窄することによりレニンというホルモンの活性が亢進します。高齢者の動脈硬化に加え、若年〜中年女性の線維筋性異形成にも注意します。腎動脈エコーや血中のホルモンの評価を行います。 - 薬剤誘発性
鎮痛薬であるNSAIDsや漢方薬などで生じます。疑わしい薬剤がある場合は、中止を検討しますが、自己判断での中止はおやめください。主治医とご相談ください。
臓器障害の評価として、血液・尿検査、心電図・心エコー、腎エコー、胸部X線、眼底検査などを適宜組み合わせます。
治療の目標
食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせ、動脈硬化の進行を抑え合併症を防ぐことが目的です。目標値は診察室血圧で130/80未満(家庭血圧で125/75未満)を基本とし、2025年改定では年齢や疾患で分かれていた目標が原則として統一されました。個々の病態や併存症に応じて、無理のない範囲で達成を目指します。
診療の現場では、目標に近づくと治療強化が先送りされる「クリニカル・イナーシャ」が問題になります。高血圧はありふれた病気だからこそ、数字だけで判断せず、二次性の除外、臓器保護、生活背景を踏まえた調整を丁寧に進めます。
薬物療法
薬剤の種類とグループ分類
高血圧管理・治療ガイドライン2025の記載から、概要を抜粋します。
- カルシウム拮抗薬:グループ1a
血管拡張作用があります。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスを有します。
副作用が少なく、使いやすい薬剤です。 - ARB (アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬):グループ1a
RAS系という血圧に関係するホルモンに作用し、腎保護が期待でき、慢性腎臓病や蛋白尿にしばしば用います。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスを有します。
副作用が少なく、使いやすい薬剤です。 - ACE阻害薬 (アンジオテンシン変換酵素阻害薬):グループ1a
RAS系に作用し、心血管保護にも有用です。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスを有します。
副作用が少なく、使いやすい薬剤です。 - サイアザイド系利尿薬:グループ1b
余分な水分・塩分を排出し、食塩感受性の高い方に有効です。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスを有します。
本来、投与されるべき病態への使用率が少なく、積極的な使用が望まれます。 - β遮断薬:グループ1b
脈拍を抑えたり、心臓の負担を軽減する作用も持ちます。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスを有します。
本来、投与されるべき病態への使用率が少なく、積極的な使用が望まれます。 - MRA (ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):グループ2
血圧上昇に関与する「アルドステロン」というホルモンの働きをおさえ、効果を発揮します。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスはありません。
治療ステップのSTEP2以降で、病態に応じて使用します。 - ARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬):グループ2
アンジオテンシン受容体阻害薬であるバルサルタンと、ネプリライシン阻害薬のプロドラッグであるサクビトリルの合剤で、心臓を守るホルモンの働きを強める作用と、心臓に負担をかけるホルモンの働きを抑える作用があります。
高血圧における脳心血管病イベント発生抑制のエビデンスはありません。
治療ステップのSTEP2以降で、病態に応じて使用します。 - α遮断薬、ヒドララジン:グループ3
治療抵抗性高血圧や特殊な病態に用います。
降圧薬の使い方
高血圧管理・治療ガイドライン2025が最近発刊され、使用方法が示されました。以下に、概要を示します。グループについては、上段の記載を参照ください。これらをもとに、患者さんの年齢、腎機能、合併症、相互作用を踏まえて選択します。
- STEP1
グループ1降圧薬のいずれかを単剤投与。積極的適応を考慮して選択。降圧目標を達成できない場合、できるだけ早期にステップアップ - STEP2
グループ1降圧薬から2剤併用。病態に応じて、グループ2降圧薬も用いる。配合剤を使用するなどして、できる限り錠剤数を増やさない。降圧目標を達成できない場合、できるだけ早期にステップアップ - STEP3
グループ1降圧薬、グループ2降圧薬から3剤併用。
生活療法
食事
日本人の食塩摂取量は平均で1日約10gとされ、WHO推奨(5g未満)の約2倍です。高血圧では、食塩を6g未満に抑えることで有意な降圧が期待でき、脳・心血管イベントの抑制にもつながります。食塩感受性の高い方は、より効果が出やすい傾向があります。あわせて、野菜・果物の摂取、適正体重の維持、飽和脂肪酸の摂りすぎを避ける、アルコールを控えるなどを勧めます。腎機能に課題がある方はカリウム摂取の上限に注意が必要です。管理栄養士の個別指導も活用します。
運動
有酸素運動と軽い筋力トレーニングの併用が推奨されます。目安は1回10分以上を積み上げ、1日合計40分程度。収縮期2〜5、拡張期1〜4mmHgの低下が報告されており、体重・体脂肪・ウエスト周囲長の改善、糖代謝・脂質代謝、メンタルヘルスや認知機能にも好影響があります。重症高血圧、狭心症や心不全、腎不全、重度の眼底病変などがある場合は、内容と強度を事前に相談します。
まとめ
健診で高めと指摘された、家庭血圧で高い値が続く、頭痛や動悸が増えた、家族に脳・心血管イベントの既往がある、といった場合は早めの受診をおすすめします。当院では、原因検索から生活指導、薬物治療まで、状態に合わせて無理のない計画を一緒に立てていきます。家庭血圧の記録をお持ちいただけると、評価がスムーズです。
循環器専門外来の担当日
- 月曜日 午前
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※金曜日午前は西川医師、宮崎医師の2名体制です。