自己炎症症候群

自己炎症症候群は、感染症や自己免疫疾患などの明確な原因がないにもかかわらず、周期的な発熱と全身にわたる炎症発作を繰り返す疾患の総称です。眼・関節・皮膚・漿膜(臓器を覆う薄い膜)など多くの部位に炎症が及ぶことがあります。

この疾患群は、免疫システムのうち「自然免疫」と呼ばれる防御機構が過剰に活性化することで引き起こされます。通常、自然免疫は細菌やウイルスなどの外敵に対して最初に反応する仕組みですが、自己炎症性疾患ではこの仕組みが自律的に暴走し、好中球やマクロファージなどの免疫細胞から炎症性サイトカイン(IL-1βやTNF-αなど)が過剰に放出されることで、全身的な慢性炎症が持続します。

ポイント:「自己炎症」という概念は、1999年にMcDermottらがTNF受容体に関連する遺伝性疾患(TRAPS)を報告したことをきっかけに提唱されました。比較的新しい疾患概念であり、今後も研究の進展とともに理解が深まる可能性があります。

自己炎症性疾患は原発性免疫不全症の一つとして国際的に分類されています。以下にその位置づけを示します。

多くの症例では乳児期から小児期に発症しますが、成人になってから初めて症状が現れるケースも報告されています。遺伝的な背景が判明しているものもあり、家族内での発症が認められる場合があります。

2. 疾患の分類

自己炎症性疾患は、炎症が生じるメカニズムに基づき、大きく二つのグループに分けることができます。

グループA:インフラマソーム関連疾患

インフラマソームとは、細胞内で炎症反応の開始に関わるタンパク質複合体です。このインフラマソームの異常が原因となる疾患群です。

  • 家族性地中海熱(FMF) ― 最も頻度が高い自己炎症性疾患
  • 高IgD症候群 ― メバロン酸キナーゼの欠損が原因
  • Muckle-Wells症候群 ― 蕁麻疹様の発疹と難聴が特徴的
  • 家族性寒冷自己炎症症候群 ― 寒冷刺激がきっかけとなる
  • CINCA症候群/NOMID ― 新生児期から発症する重症型
  • NLRC4-MAS ― マクロファージ活性化を伴う
  • PLAID / APLAID ― PLCγ2関連の免疫異常

グループB:インフラマソーム非関連疾患

インフラマソーム以外の経路で炎症が引き起こされる疾患群です。

  • TRAPS ― TNF受容体の遺伝子変異による周期性発熱
  • PAPA症候群 ― 無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・痤瘡を特徴とする
  • Blau症候群 ― 肉芽腫性炎症を伴う
  • Majeed症候群 ― 慢性再発性多巣性骨髄炎を特徴とする
  • DIRA ― IL-1受容体拮抗因子の欠損
  • DITRA ― IL-36受容体拮抗因子の欠損
  • CANDLE ― 脂肪萎縮を伴う慢性好中球性皮膚炎
  • COPA欠損症 ― コートマータンパク質複合体の異常

3. TRAPS(TNF受容体関連周期熱症候群)

TRAPSは、TNFα受容体をコードするTNFRSF1A遺伝子の変異に起因する周期性発熱症候群の一つです。1982年にアイルランド系・スコットランド系の家系において初めて報告されました。当初は「Familial Hibernian Fever」と呼ばれていましたが、1999年に原因遺伝子が同定されたことにより、現在のTRAPSという名称が用いられるようになりました。

遺伝と頻度

常染色体優性遺伝の形式をとり、きわめてまれな疾患です。世界的にはこれまでにおよそ200例が報告されており、欧州系の人種に多い傾向があります。国内での報告例は約30例程度です。発症年齢は生後2週間から50代まで幅広いものの、多くは幼児期に初発し、発症年齢の中央値は3歳前後とされています。

主な症状

最も特徴的な症状は周期的に繰り返す発熱で、一回の発熱は通常3日から数週間続き、その多くは1週間以上に及びます。こうした発作がおよそ5~6週間の間隔で反復します。

TRAPSで認められる主な症状

  • 発熱 ― 通常1週間以上持続する長い発熱発作
  • 皮膚症状 ― 全身に出現し、痛みや熱感を伴う発疹。平均して約13日間持続し、短時間で移動する場合もある
  • 筋肉の痛み ― 皮膚症状と同部位に出現することが多い
  • 眼の症状 ― 結膜の炎症や眼の周囲の腫れ
  • 消化器症状 ― 腹部の痛み、吐き気
  • 関節の痛み

血液検査上は、白血球数の上昇、CRPなどの炎症マーカーの高値、補体や免疫グロブリンの増加が認められます。炎症が長期間にわたると、アミロイドという異常タンパク質が各臓器に蓄積する「アミロイドーシス」を合併する場合があり(全体の約10%)、腎臓や肝臓への影響に注意が必要です。

診断の進め方

臨床症状がみられ、遺伝子解析によるTNFRSF1Aの変異が確定診断となります。臨床症状の特徴をまとめたTRAPS診断基準案が提唱されています。

16か月以上にわたって繰り返す炎症兆候の存在
(いくつかの兆候は同時にみられることがある)
1. 発熱
2. 腹痛
3. 筋肉痛(移動性)
4. 皮疹(筋肉痛を伴う紅斑様皮疹)
5. 結膜炎 / 眼周囲の浮腫
6. 胸痛
7. 関節痛または単関節の滑膜炎
2平均5日以上続く症状
3ステロイドが有効だが、コルヒチンが無効
4家族歴(いつも家族歴があるわけではない)
5どの人種、民族でも起こる可能性がある
HullらのTRAPS診断基準案
(Medicine (Baltimore).81(5):349-68,2002から引用)

治療の選択肢

発作が軽度で頻度が少ない場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が症状の緩和に役立つことがあります。症状がより重い場合には、副腎皮質ステロイドの使用が検討され、発作の早い段階で投与するほど効果が高いとされています。

発作が重度で頻繁に繰り返す場合は、以下のような免疫調整薬や生物学的製剤の使用が報告されています。

TRAPSに対する治療薬の例

  • アザチオプリン(免疫抑制薬)
  • シクロスポリン(免疫抑制薬)
  • エタネルセプト(TNF阻害薬)
  • アナキンラ(IL-1阻害薬 ※日本未承認)
  • カナキヌマブ(IL-1阻害薬) ― 日本国内で承認済み

4. 家族性地中海熱(FMF)

家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever:FMF)は、自己炎症性疾患の中でもっとも多い疾患であり、短期間の発熱と漿膜炎を繰り返すことが特徴です。発熱の持続は通常12時間から72時間程度で自然に軽快するのが典型的です。

遺伝と頻度

常染色体劣性遺伝の形式をとります。1997年にMEFV遺伝子の変異がこの疾患の原因であることが明らかになりました。世界全体では1万人以上の患者が存在するとされ、特に地中海沿岸諸国(トルコ、アルメニア、アラブ諸国、イスラエルなど)に多く見られます。日本国内の患者数は推定で約500名前後とされ、多くは小児期に発症しますが、20歳前後の発症も報告されています。

主な症状

FMFの主な臨床像

  • 周期性の発熱 ― 1~3日間の短い発熱が特徴。発作の間隔は不規則で個人差がある
  • 漿膜炎 ― 腹膜炎(激しい腹痛)、胸膜炎(背部痛)、心外膜炎などを呈する
  • 関節炎 ― 足や膝などの下肢の大きな関節に、急性かつ強い痛み・発赤・腫脹を伴って出現
  • 皮膚症状 ― 丹毒様の紅斑が下腿に出現することがある
  • その他 ― まれに無菌性髄膜炎を合併する場合もある

発熱発作はストレスや手術、月経などに誘発されて起こることがある一方、明らかな誘因なく生じる場合もあります。血液検査では発作時にCRP等の炎症マーカーが著しく上昇しますが、発作の間欠期にはこれらが正常化するのが特徴です。

注意:TRAPSと同様に、長期的な炎症の蓄積によりアミロイドーシスを合併するリスクがあります。腎臓の機能障害が進行する場合があるため、定期的な経過観察が重要です。

診断の進め方

日本では以下のような診断基準が広く用いられています。感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍など他の原因が除外されていることが前提です。

MEFV遺伝子の解析も補助的な診断手段として有用ですが、遺伝子変異が検出されない症例でも臨床的にFMFと診断される場合があります。

必須項目12時間から72時間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す。発熱時には、CRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める。発作間歇期にはこれらが消失する。
補助項目 (i)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める。
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎(股関節、膝関節、足関節)
d 心膜炎
e 髄膜炎による頭痛
f 髄膜炎による頭痛
補助項目 (ii)コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する。
必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める症例を臨床的にFMF典型例と診断する。
家族性地中海熱の診断基準
(難病情報センター「家族性地中海熱」より引用)

治療の選択肢

FMFの基本治療はコルヒチンの内服です。発作の予防、症状の軽減に加え、長期的なアミロイドーシスの予防効果も確認されています。

コルヒチンが効果不十分であったり副作用のため十分に使用できない場合は、生物学的製剤の使用が検討されます。IL-1阻害薬、TNF阻害薬、IL-6阻害薬などの有効性が報告されており、日本国内ではカナキヌマブ(IL-1阻害薬)が保険適応を取得しています。

5. 日常生活での注意点

患者さんとご家族へ

  • 発作の記録をつける ― 発熱の日時・持続時間・随伴症状をメモしておくと、受診時に医師とのコミュニケーションが円滑になります
  • 処方薬を自己判断で中断しない ― 特にコルヒチンなどの予防薬は、症状がない時期も継続することが重要です
  • ストレスや過労の回避 ― 精神的・身体的ストレスが発作を誘発する場合があるため、日頃から心身の休養を意識しましょう
  • 定期的な受診 ― アミロイドーシスなどの長期合併症を早期に発見するため、定期検査(血液・尿検査など)を継続してください
  • 周囲への理解を求める ― 目に見えにくい症状が多い疾患のため、学校や職場に疾患について説明しておくと安心です

当院の紹介

ひろせクリニックは埼玉県所沢市にあり、西武新宿線の新所沢駅が最寄りです。
当院では関節リウマチ・膠原病の診療を11名の専門医が担当しています。全身疾患であるリウマチ・膠原病の管理を万全に行うため、一般内科・小児科に加え、循環器、消化器、内分泌・代謝、呼吸器、泌尿器科など各分野の医師とも連携した診療を行っています。

原因不明の発熱が続くなど、お困りの症状がある患者様はいつでもご相談ください。

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