関節リウマチは30〜50代の女性に多く発症する疾患であり、妊娠・出産可能な年齢で罹患することもあります。「リウマチがあっても妊娠できるのか」「薬は続けられるのか」——このページでは、妊娠前の準備から産後までの管理について解説します。
参考文献
- 土田優美. 関節リウマチ患者の妊娠. 日本内科学会雑誌. 2023;112(10):1927–1931.
- Brouwer J, et al. Fertility in women with rheumatoid arthritis: influence of disease activity and medication. Ann Rheum Dis. 2015;74:1836–1841.
- Smith CJF, et al. Factors Associated With Preterm Delivery Among Women With Rheumatoid Arthritis and Women With Juvenile Idiopathic Arthritis. Arthritis Care Res. 2019;71:1019–1027.
- Tsuda S, et al. Pre-conception status, obstetric outcome and use of medications during pregnancy of SLE, RA and IBD in Japan. Mod Rheumatol. 2020;30:852–861.
- Smeele HT, et al. Modern treatment approach results in low disease activity in 90% of pregnant rheumatoid arthritis patients: the PreCARA study. Ann Rheum Dis. 2021;80:859–864.
- 全身性エリテマトーデス(SLE),関節リウマチ(RA),若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠,出産を考えた治療指針. https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/
- Götestam Skorpen C, et al. The EULAR points to consider for use of antirheumatic drugs before pregnancy, and during pregnancy and lactation. Ann Rheum Dis. 2016;75:795–810.
- Sammaritano LR, et al. 2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Reproductive Health in Rheumatic and Musculoskeletal Diseases. Arthritis Rheumatol. 2020;72:529–556.
- Russell MD, et al. British Society for Rheumatology guideline on prescribing drugs in pregnancy and breastfeeding. Rheumatology (Oxford). 2023;62:e48–e88.
関節リウマチが妊娠に与える影響
関節リウマチ(RA)の女性では、疾患活動性が高い状態では妊娠が成立しづらくなることが報告されています。RAの免疫異常が着床を阻害している可能性などが指摘されています。
妊娠成立後も、RAのコントロールが不良であると、子宮内胎児発育不全・低出生体重児が増加することが知られています。そのため、妊娠計画中を含めて、使用可能な薬剤で寛解もしくは低疾患活動性を目標とした治療を続けることが重要です。
妊孕性(妊娠しやすさ)への影響
NSAIDs(ロキソニン等の解熱鎮痛剤)の使用やプレドニゾロン7.5mg/日以上の使用は、妊娠成立までの期間を延長させるというデータがあります。ステロイドや痛み止めで対症療法をするのではなく、抗リウマチ薬でしっかりと炎症をコントロールすることが、妊孕性の維持にも重要です。
妊娠計画中・妊娠中の薬剤管理
妊娠計画中および妊娠中のRAの治療薬管理については、本邦の「SLE・RA・JIA・IBD罹患女性患者の妊娠・出産を考えた治療指針」をはじめ、EULAR・ACR・BSRのガイドラインが公表されており、その推奨は概ね一致しています。
妊娠希望を決めたとき:まず主治医へ相談・薬剤の見直し
- 現在の薬剤の妊娠への影響を確認する
- 中止が必要な薬(メトトレキサート(MTX)・レフルノミド・JAK阻害薬・イグラチモド)を計画的に切り替え
- 妊娠中も使用可能な薬剤へ変更し、疾患活動性を低く保つ
- プレコンセプションカウンセリングの実施
MTX休薬後:薬剤調整完了後に妊活開始
- MTXは中止後最低1回月経が来てから妊娠可能(従来は3か月とされていたが、データ蓄積により1月経周期が一般的に)
- レフルノミドは体内残存が長いため必要に応じてワッシュアウト処置を行う
- 男性もMTX服用中は避妊が必要(少なくとも3か月以上)
妊娠判明後:速やかに主治医・産婦人科へ報告
- 服用中の薬の安全性を再確認する
- 自己判断で薬を中止しない(疾患活動性が高まると胎児にも影響する)
- リウマチ専門医と産婦人科の連携を開始
- MTX内服中に計画外に妊娠が判明した場合も、安易に中絶を選択せず専門医のもとでカウンセリングを行う
妊娠中期〜後期:生物学的製剤の休薬タイミングを調整
- インフリキシマブ・アダリムマブ:妊娠20週を目安に休薬(EULAR基準)
- エタネルセプト:妊娠30〜32週を目安に休薬(EULAR基準)
- セルトリズマブ ペゴル:胎盤移行性がほとんどなく、妊娠全期間を通して使用可能とされている
- 妊娠中期〜後期に生物学的製剤を使用した場合、生後6か月は児への生ワクチン接種を控える(ロタウイルス・BCGが該当)
産後:授乳方針と合わせて治療再開を計画
- 産後の再燃に備え、事前に治療再開計画を立てておく
- 多くの薬剤は授乳中でも使用可能——安易に授乳を諦めない
- 小児科医と連携し、児のワクチン接種スケジュールを調整
薬剤別の使用可否まとめ
本邦治療指針・EULAR・ACR・BSRガイドラインに基づいた使用可否の目安です。個々の状況によって判断が異なりますので、必ず主治医と相談してください。
| 妊娠計画中 | 妊娠中 | 授乳中 | 注意点 | ||
| メトトレキサート | × | × | × | ||
| アザルフィジンⓇ | 〇 | 〇 | 〇 | 授乳時には児の血性下痢に注意する. | |
| タクロリムス | 〇 | 〇 | 〇 | ||
| レフルノミド | × | × | × | ||
| イグラチモド | × | × | × | ||
| TNF阻害薬 | 〇 | 〇 | 〇 | セルトリズマブ ペゴルは胎盤移行性が低い。 妊娠後期まで使用した場合には,生後6カ月児は生ワクチンを控える。 | |
| IL-6受容体阻害薬 | 〇 | △ | 〇 | 妊娠中の使用に関するデータが乏しいため、妊娠判明時には中止することが一般的には推奨される。他剤でコントロール困難な場合には、十分な説明のもとの使用は検討される。 | |
| アバタセプト | 〇 | △ | 〇 | ||
| JAK阻害薬 | × | × | × | 未だデータが乏しいため、避けるべきと考えられる。 | |
| プレドニゾロン | 〇 | 〇 | 〇 | 量が多いと前期破水や早産のリスクとなる。 | |
| NSAIDs | 〇 | 〇 | COX-2選択性でない薬剤を選択する。動脈管閉鎖のリスクがあるため、妊娠後期には中止が必要。 | ||
| 〇使用可能,△注意点あり,×使用不可 | |||||
⚠️ 薬剤の安全性は個々の状況(疾患活動性・妊娠週数・併存疾患)によって判断が異なります。
自己判断で薬を中止することは疾患悪化につながるリスクがあります。必ず主治医に相談してください。
授乳中の管理
母乳育児には様々なメリットがあり、薬剤使用のために安易に授乳を諦めないことが重要です。多くのリウマチ治療薬は授乳中も使用可能です。
授乳中に使用可能な主な薬剤
TNF阻害薬:母乳への分泌は少なく、消化管での児の吸収も悪いため授乳可能
タクロリムス:母乳への分泌は少量。使用可能
サラゾスルファピリジン:少量分泌されるが基本的に授乳可能。高用量では血性下痢の報告あり
プレドニゾロン(少量)・NSAIDs:授乳中の使用可能
TNF阻害薬以外の生物学的製剤:実臨床データは乏しいが、分子量が大きく母乳を介した児への影響は少ないと考えられる
授乳中に使用できない主な薬剤
MTX・レフルノミド:授乳中は禁忌
JAK阻害薬:母乳に分泌されるため現時点では避けることを推奨
なお、添付文書に「授乳中は避けること」と記載されている薬剤でも、実際の母乳への移行量が極めて少なく、臨床的に授乳可能と判断されるものがあります。個々の薬剤について主治医と確認してください。
抗SS-A抗体と胎児の房室ブロック
RA女性ではシェーグレン症候群の合併が多く、抗SS-A抗体陽性である場合も多いです。抗SS-A抗体陽性の女性の妊娠では、胎児の房室ブロックや新生児ループスが見られることがあります。
胎児の房室ブロック
抗SS-A抗体陽性女性の妊娠の約2%で見られ、妊娠16〜26週に出現します。この期間は産婦人科と連携して2週間ごとなど頻回に胎児の状態を確認することが推奨されます。Ⅲ度房室ブロックになると非可逆的で予後不良といわれています。
新生児ループス
抗SS-A抗体陽性女性の妊娠の1〜3割では、児に生後一過性に皮疹や血球減少が認められることがあり、新生児ループスと呼ばれます。通常重篤になることはなく、母体から移行した自己抗体の消失とともに症状は軽快します。
当院の紹介
ひろせクリニックは埼玉県所沢市にあり、西武新宿線の新所沢駅が最寄りです。
当院では関節リウマチ・膠原病の診療を11名の専門医が担当しています。全身疾患であるリウマチ・膠原病の管理を万全に行うため、一般内科・小児科に加え、循環器、消化器、内分泌・代謝、呼吸器、泌尿器科など各分野の医師とも連携した診療を行っています。
関節の症状でお困りの方は、いつでもご相談ください。
⚠️ このページをお読みになる方へ
このページは、関節リウマチと妊娠に関する一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の治療法・薬剤の使用を推奨・指示するものではありません。
薬剤の使用可否・休薬のタイミング・治療方針については、個々の疾患活動性・妊娠週数・体の状態によって大きく異なります。ページ内の情報をご自身の治療に直接あてはめることはせず、必ず担当のリウマチ専門医にご相談ください。
特に、自己判断による薬剤の中止・減量は、疾患の悪化や胎児への影響につながる可能性があります。気になることがあれば、まず主治医または当院へお問い合わせください。