1. 「脂肪性肝疾患(SLD)」とは?
「脂肪性肝疾患(Steatotic Liver Disease: SLD)」とは、その名の通り、肝臓に脂肪が過剰にたまる病気の総称です。
これまで「脂肪肝」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。しかし最近、この病気の呼び方や分類が国際的に大きく見直され、「SLD」という新しい概念が生まれました。
2. なぜ名前が変わったの?
これまでは、お酒をあまり飲まない人の脂肪肝を「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼んでいました。しかし、この名称には2つの大きな問題点がありました。
- 病気の本質をより正確に表すため
「非アルコール性」という言葉は、「アルコールが原因ではない」という否定的な表現にとどまっていました。しかし、この病気の本当の根本原因は、肥満や糖尿病、高血圧といった代謝の異常にあります。新しい名前は、「アルコールだけが問題ではない」という視点から一歩進んで、「代謝機能の障害が病気の中心にある」という本質を明確に示しています。 - 患者さんへの配慮
alcoholic(アルコール性)やfatty(脂肪性)といった言葉は、患者さんに「お酒の飲み過ぎ」や「不摂生」といったネガティブな印象を与え、偏見(スティグマ)につながる可能性がありました。新しい名称は、こうした言葉がもたらす心理的な負担を取り除き、誰もが前向きに病気と向き合えるようにするという目的も持っています。
「脂肪性肝疾患(SLD)」の主な種類
新しい分類では、SLDはその原因によっていくつかのタイプに分けられます。ここでは、特に多くの人に関係する代表的な2つのタイプを紹介します。
- 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患 (MASLD)
従来の「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」の大部分がこれにあたります。肝臓に脂肪がたまることに加え、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症といった心血管代謝リスク因子が1つ以上ある場合に診断されます。 - 代謝機能障害アルコール関連肝疾患 (MetALD)
MASLDの要因(代謝異常)に加え、中等量の飲酒習慣(男性で1日30g~60g、女性で1日20g~50g)がある場合に診断される、新しい分類です。
なぜ早期発見が重要なのか?
肝臓は"沈黙の臓器"と呼ばれ、ダメージを受けてもなかなか症状を出しません。SLD、特にMASLDの早期発見が非常に重要な理由は、まさにこの点にあります。
- 症状がないまま進行する
多くのケースでは自覚症状がほとんどなく、健康診断などで偶然見つかります。しかし、気づかないうちに病状は静かに進行し、発見されたときには肝臓が硬くなる肝硬変や肝がんといった、命に関わる深刻な状態になっている危険性があります。 - 肝臓だけの問題ではない
SLDは肝臓だけの病気ではありません。代謝異常を背景に持つため、心血管病(心筋梗塞や脳卒中)、腎臓の障害、肝臓以外のがんなど、全身の様々な病気のリスクを高める「全身性疾患」として捉えられています。 - 肝線維化が命に関わる
病気が進行すると、肝臓は炎症を繰り返し、次第に硬く変化していきます。この状態を「肝線維化」と呼びます。この線維化の進行度合いは、肝臓関連の病気だけでなく、全体の死亡リスクを予測する最も重要な指標であることがわかっています。
では、症状が出にくいこの病気を、どうすれば早く見つけることができるのでしょうか。実は最近、健康診断の結果からリスクに気づくための新しい指針が示されました。
新しい発見の仕組み「奈良宣言」
2023年、日本肝臓学会は「奈良宣言」を発表し、身近な健康診断をきっかけにSLDを早期発見するための具体的な流れを提案しました。難しい検査ではなく、誰もが受けられる血液検査の結果からリスクを見つける仕組みです。
- きっかけは健康診断の「ALT」
健康診断や血液検査の結果表にある「ALT(GPT)」という項目に注目します。この数値が基準値の目安である「30 IU/L」を超えていたら、それが最初のサインです。 - かかりつけ医での初期評価
ALTが30を超え、かつ肥満や高血圧などの心血管代謝リスクがある場合、まずはかかりつけ医に相談します。ここで、より詳しい評価が行われます。 - 専門医への紹介
かかりつけ医は、「FIB-4 index」(年齢と血液検査の数値から肝臓の線維化、つまり硬さの進行度を推定する計算式)や「血小板数」といった指標を使い、肝臓の線維化が進んでいるリスクを評価します。FIB-4 indexが1.3以上、または血小板数が20万/μL未満の場合、リスクが高いと判断され、肝臓専門医への受診が勧められます。
このように、身近な健康診断の結果が、病気の早期発見につながる大切な手がかりになります。もしリスクが見つかった場合、どのような治療法があるのでしょうか。
治療について
MASLD治療の最も重要な基本は、薬ではなく「生活習慣の改善」です。これは大変に聞こえるかもしれませんが、ご自身の努力が直接、肝臓の健康につながるという、非常に前向きな治療法でもあります。特に体重を減らすことが、肝臓の状態を良くするために非常に効果的であることが科学的に証明されています。
体重減少と肝臓の改善効果
• 5%の体重減少で: 肝臓にたまった脂肪が改善
• 7%以上の体重減少で: 肝臓の炎症が改善
• 10%以上の体重減少で: 肝臓の線維化(硬さ)が改善
この目標を達成するために、以下の2つが治療の柱となります。
- 食事療法
単に食べる量を減らすだけでなく、バランスが大切です。
・全体のカロリー制限を基本とする
・糖質を控えめにし、食物繊維を多く摂る
・ジュースや甘いお菓子に含まれる果糖を避ける - 運動療法
体重が減らなくても、運動自体が肝臓の脂肪を減らす効果があります。
ウォーキングなどの中等度の有酸素運動を、週に合計150分以上行うことが推奨されます。
薬物療法について
2025年現在、MASLDそのものを治すための特効薬として承認されたものはありません。しかし、関連する糖尿病や脂質異常症の治療薬の一部が、肝臓の状態を改善する効果も持つことがわかってきており、現在も活発な研究が進められています。
まとめ
この解説で最もお伝えしたい大切なポイントは、以下の3つです。
• 脂肪性肝疾患(SLD)は、代謝異常が原因で起こる、非常に身近な全身の病気です。
• ほとんど症状なく進行するため、健康診断の「ALT値」などを活用した早期発見が何よりも大切です。
• 治療の基本は生活習慣の改善であり、食事や運動に前向きに取り組むことで、肝臓の状態を良くすることができます。
この病気は、もはや一部の人の問題ではありません。まずはご自身の健康診断の結果を改めて確認し、気になる点があればかかりつけ医に相談することから始めてみましょう。